大使館ビザ申請窓口

「toko、とびっきりのいい話があるよ」

僕がそう言うと好奇心むき出しの表情で彼女はすぐに食らいついてきた。

「何?いい話?いい話なら大好き」

「あのね、今まで黙っていたけど今のtokoならもう伝わるだろう。

どうかな?各国の大使館を回ってみて印象の深いところはあったかな?」

「それはあるわよ。スペイン大使館の見事な日本庭園も、

カナダ大使館のお城みたいなビルも、エジプト大使館のスフィンクスの像がある壁も、

ベトナム大使館の開放的な雰囲気も、どれも好きよ」


「そうだね。各国のカラーがあってどの大使館めぐりも面白い。

でもどうだろう?サービスの面でビザ申請して感謝されたことはあったかい?」

「それはないわよ。どこもこちらからお願いして申請している感じ」

「そう、そこだよ。そのいい話っていうのはね、とあるアフリカの大使館、

滅多に発生するビザじゃないよ、そこに申請に行ったときの話だ。

まぁ普通にビザ申請して書類が通って、終わって帰ろうとしたら

“ありがとうございました”って窓口の人に言われた。

その一声がね、僕の耳に残って離れない。

ありがとうの感謝の気持ちを返された大使館があったんだ。

この意味は分かるかな?」


「分かる!それはとってもいい話ね!

そんな大使館ならわたしも何回でも申請に行ってみたい!

そんな経験はまだないわ。あぁ、言われてみたい言葉ね!」

「だろう?本当に当たり前の挨拶かもしれない。

お金を払って物事をお願いしたら返すべきなのは、ありがとう、だよ。

でもそんな当たり前のことができなくなるのが大使館窓口の仕事の特質なんだろう。

件数が少ないから、まだすれていないからそうなったのかな?

いや、違うよ。やっぱりたどり着くのは人にお願いする、感謝する、

その人として当然のモラルがあるかないかなんだろうね」


「ホントね。いくつも大使館をまわった今なら分かる。

大使館としてはビザを発給してやった、というのは正解。

でもその大きな枠じゃなくて、窓口に座っている一人の人間として

その気持ちは大事にしたいね。

わたしもそんな立場だったらありがとうも言えない人間になっちゃうのかなぁ」


そう言う彼女に僕は言ってあげたかったよ、toko、君なら大丈夫さ、

君ならそんな大事なことを忘れたりはしないよ、って。

口にするのはやっぱり照れくさいから、僕も口には出せなかったよ。

 

ビザ申請 航空券コピー

「ビザ申請の提出書類で、航空券か日程表を添付するのって本当に有効?」

ずっと気になっていたこと、ある時ケンに聞いてみてみた。


「本当にあなたの国に行くよ。出発日はこれで決まっているだよ。

そのために航空券のお金も払ったし、ウソじゃないっていう意思表示。

凄く急いでいる時は、この出発日までにどうかビザを発給して下さい

というメッセージになるんじゃないかな、って思っていたけど実際はどうなの?」

 

「残念ながら逆なんだね。

立場を変えて、ビザの申請書類を受け取る側から考えてみようよ。

航空券コピーだったり、フライト日程表があるってことは

申請者は自分がビザ発給される、ということを見越してビザ申請手続きだろう?

それがずっと先の日程だったらまだいいけど、

それこそ一週間後、極端な話2−3日後の出発のチケットを勝手に示されても

大使館にも大使館の事情があるから、

毎日大勢のビザ審査・発給をこなす上で、逐一出発日まで考慮はできないはずなんだ」

 

ケンは予約端末をカチャカチャ叩きながら返事をした。

 

 

 

 

 

「つまり、余計なお世話だから、旅程表とかは付けないほうがいいってこと?」

「その通りだ、旅子。理解が早い。

本当に余計なお世話で、ほら、フライトスケジュールなんて予約端末を操作すればすぐに作れる」

と、ケンは予約端末から旅程表を印刷し始めた。

それって本当に予約が入っていなくても作成できる、ダミーのもの。


「こんな紙切れ一枚が本当に出発する金銭・行動の証拠にはならない。

ビザ発給の審査官からすれば、別に出発日までビザをおろすのが仕事じゃない。

必要とする審査時間を経て、通常の流れでビザ発給をするのが本筋だろう。

もちろん、だからと言って怠惰な審査時間は認められないし、

人道上のことがあるなら別だとは思うけどね」


なるほど、そう説明されると分かった気がした。

そうだよね、仕事は自分側の都合だけを押し付けてはいけない。

相手があることは、相手の立場から推し量ってあげるのが本当の優しさ

 

予約端末に向かってフライト予約を取っているケンの横顔、

そこら辺のことをわきまえた上で微笑を浮かべている?それは素敵なことね。

 

 




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