アメリカ 出入国カード

物事には様々な解釈の方法がある。

現実は一つでも二者いればそれぞれの主張は違うし、

法律の解釈でも弁護士や裁判官によって異なるものが出てくる。

この世の中はそういうものだ。

 

 

海外旅行の世界だってそれはある。

例えば国際航空券の発券運賃、折り返し地点・フェアブレイクポイントをどこで取るかによって運賃は違ってくるし、

査証の申請書の書き方だって各国大使館の窓口の人によって正解はまちまちだよ。

何もそういうことがイヤでイヤで耐えられない、と言っているわけではない。

各人がプライドを持って生きていればこそ、そういうことが起こるのだから。


――さて。アメリカの入国カードが2種類あることは知っている人も多いだろう。

アメリカビザを持っている人は白色のI−94。

ビザ免除プログラムで入国する人は緑色のI−94W。

自分が該当する方を使えばいいので話はシンプルなのだが、1パターンだけややこしいケースがある。

有効なアメリカビザを持ちながら、しかし今回の訪米目的がビザを必要としないビジネスミーティングの人は、

白と緑、どっちの入国カードを出せばいい?


こういう実例がある。

その人は有効なアメリカ就労ビザを持っていたが、すでにアメリカ駐在を終えて日本に帰任していた。

アメリカ出張が入ったので当然のように今回からは緑色の入国カードを使いビザなしで入ろうとしたが、

入国審査官に「ビザがある奴は白色で入国するものだ」と言われて、

実情帰任済みで本来使えないはずのビザを使わされて入国した。

また別の出張者はやはりアメリカから帰任そうそうだが、

残っていた仕事を片付けにアメリカに入国し、あきらかにビジネスミーティングではなかったことから

白色入国カードでビザを使って入国しようとしたところ、

「日本に帰任しているのなら緑色だ!」と言われてビザなしで入国した。

このことは入国した都市によって、そして審査官単位で判断が違う。

 

 

正解はどっちなの?やはり帰任したのならもうアメリカでポジションはないだろうし、

それを考えれば緑色のビザなしが正しいだろうとは思う。

しかしそれを受け付ける人が違うと判断すれば、その判断が優先だろう。

つまり答えはないのだ。

いくら論理的に答えて正当を訴えたところで何の意味ももたらさない。

どちらも正解であって、どちらも誤りである。

考えても無駄さ、だから入国カードは両方準備しておけばいい。

小さな問題点を大きく飲み込んで、どちらでも対応できる形を取っておけばいいから。


最初は入国審査に緑色のI−94Wを出せばいい。

こちらのほうが筋が通っている。

ビザを取った時ときっとあなたの仕事目的・訪問先企業などが変わっていることだろうから。

そこで何かを言われたらすかさず白いI−94を出せばいい。

「コイツ、やるなっ!」って表情を入国審査官はするはずだよ。

ほら、これで問題は解決される。

トラブルをスマートに回避するトラベラーだよ。

まっすぐ進むだけが能じゃない。

物事には様々な解決の方法があるんだしね。

 

アメリカ・カナダ間 入国審査特別ルール

わたしは今、デトロイトモーターショーの仕事でデトロイトに海外出張しているのだが、

東京で留守番をしてくれている旅子とはメールで仕事の連絡を取り合うことにしている。

夜、メトロエアポートのウェスティンエアポートホテルの部屋に戻ってPCを空けると、

ほら、今日もやっぱりメールが入っているよ。

「ケン、お疲れ様。また分かんないのよ、

カナダへの出張者がさぁ、その人はシカゴからエアカナダでトロントに入ったんだけど、

アメリカの入国カードがまだパスポートに残っているって大騒ぎ。

もうどうしようもないよね?また2日後にシカゴにもう一度戻るんだけど、

その際に状況話してなんとかするしかないよね?これで正解?」

さぁ、どうしよう。

先にマクナマラターミナル内のレストランでディナーを取ろうかと思ったけど、

やっぱり先に返信をしておくことにしようか。


「旅子、不在中のヘルプ本当にありがとう。

真冬のデトロイトは五大湖からの寒風で強烈に寒いけど、

今日はひどく風が強くて指の感覚がなくなっちゃうほどだったよ。

さて、アメリカ・カナダ間の特別ルールってやつがあってね、

アメリカからカナダに行ってまたすぐにアメリカに戻る人は、

最初にパスポートにステイプルされたI-94Wの入国カードはそのままでアメリカを出て、

またアメリカに入ってくるときはそのI-94Wがもう一度使えるんだ。

ちょっとカナダに行ってまた帰ってくるなら二度もアメリカの入国審査を通るのは大変だろう?

そこを簡単にさせようとしてこういう特別ルールがあるんだよ。

だからその方のパスポートにI-94Wが残っていて正解ってことになるね。

トロントからシカゴにフライトする時、

トロント空港でのアメリカ入国審査でその入国カードをそのまま見せればいいんだ。

あと二日ばかりご迷惑をおかけしますが、不在中よろしくお願いします。ケン」


PCを閉じるとわたしは窓無効のマクナマラターミナルから飛び立つ飛行機を眺めた。


デトロイトからカナダへ、そしてメキシコへ。

カナダだけじゃなくてこのアメリカ特別ルールはメキシコにも適用されている。

陸続きの隣国がないわたしたち日本人にはそうそう理解できないことかもしれないけど、

とても合理的で良いルールだとわたしは感じている。

と言っても入国カードルールも少々ややこしいところがあって、

便や空港、そして入国カードを回収している航空会社のスタッフによっては

入国カードをそのままにしたり、あるいは回収してしまう人もいる。

表向きにはまた帰ってくる人は回収されないのだが、相手の気分によっては回収されてしまうのだ。

そうしたらまた入国カードを書いてアメリカ入国すればいいだけのこと。

どちらでも良いよね。人生の唯一の答えなんか、求めるべくもないのだから。

表を案内すれば裏が来ることがある。裏と案内すれば表に戻るのもよくあること。

表裏いずれも情報提供してしまえば、あとはどうにでもなれ。

冬のデトロイト空港は積雪でフライトキャンセルになったり、フライトディレイが起こりがち。

航空会社職員の不意のストライキによるフライトの乱れだってあることじゃないか。

それは避けられることではないから、様々な情報を顧客に渡しつつ、

あとは問題が起きたときに十分フォローできる体制をとっておくのが我々旅行会社の仕事じゃないかな。

ノースウェスト航空機が多く離発着するこのデトロイトはメトロ空港でわたしはそんなことを考えていた。

 

アメリカ 入国審査 態度

米国の入国審査ほど緊張するものはないよ。

イギリスもうるさいし、サウジアラビアなんて銃を持った兵士にいつ狙撃されるか分からないから怖いのはあるけど、

アメリカは先進国の中で一番イヤな印象がある。

なんでこんなにうるさく質問してくるのだろう?

移民の国、人の出入りによって栄えている国のはずなのに

どうして入国者たちをウェルカムしないのか、理解ができないままだった。

それで以前は米国出張で入国をするときは入国審査官たちを睨み付けるようにして

必要最低限の会話を交わし、質問の最中にもイライラしている雰囲気を見せてなんとか早く乗り切ろうとしていた。

それがある時、ちょっと驚いたことがあって米国入国審査の態度を一変させる切っ掛けになった。

 

 

わたしがまたいつものイライラ作戦をやろうかと

米国入国審査で順番待ちをしていた時、前の人を対応していた入国審査官が笑ったのが目に入ってきた。


それは信じられないシーンだった。

入国審査を受けている人と入国審査官が、二人して談笑している。

えっ、入国審査官なんていつも無表情だろ?笑うなんてありえないだろ?

そのまま穏やかな様子で手続きは進んでゆき、審査が終わると手を振り合って別れてゆく。

それで「Next,」と呼ばれたとき、わたしは正直、拍子抜けしてしまって

どう受け答えしようと考えていたのか、すっかり記憶が飛んでしまった。


それでその時ばかりは、イライラする振りなんてできなかった。

入国審査で聞かれたことに真面目に答えたのはその時が初めて。

結局洗いざらい本当の入国目的や仕事内容をわたしは話していた。

するとどうだろう。わたしはそれほど英語が上手なわけではないのに、

拙い英語ながらもしっかり伝えようとしたのが分かったのか、

入国審査官はわたしの目を見てわたしの言葉をちゃんと受け止めてくれた。

それでお互い分かり合えた気分がした。

やり取りを終えると自然と笑顔になり、なんだかすがすがしい気分にさえなって

次のバゲージクレームへと歩いていった。

 

 

前回までは違ったんだ。

一秒でも早く入国審査を終えたいと思うばかりで、

互いが腹の探りあいと騙し合い中で終わるのが米国入国審査だと思っていた。

でも、どうやらそれは違ったみたい。

このことはわたしの頭にすっかり別の考え方を植え付けさせてくれた。

協力的に相手に向き合うことも大事。国境を越えて言葉という障害があったとしても

こちらの誠実は相手に届くものだと知った。

いいや、言葉が100%伝わらないからこそ、気持ちを見せることが

国籍の違いによる問題を突破してくれるとわたしは分かったと思う。


入国審査って言葉ができないからちゃんと答えられない?

いいえ、違うみたいだよ。言葉ができないからこそ、

誠実さを出せばいとも簡単に互いが理解し合うことができる。

入国審査官は一日どれだけの初対面の人と話すのだろう。

それも外国人ばかり、言葉がまったくできない人も多くいるだろう。

言葉が問題ではない。

現に言葉ができないからという理由で入国拒否された事例なんて聞いたことがない。


自分が考えているよりも相手はOPENだ。

入国審査官は仕事柄、言葉がつながらないのなんて毎日のことじゃないか。

だからこそ心で態度で誠実を伝えることが米国入国審査をスマートに通り過ぎる最良の方法だと、

わたしは長年の米国出張を通してようやく、分かった気がしている。

 

 






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